寝たきりをなくそう!
- 2022年12月24日
- 【簡単・からだ講座】, 🔸生理学
私たちは日頃から立ったり、歩いたりといった日常の動作で
知らず知らずのうちに重力に逆らっています。
重力に対する適度な抵抗、運動をすることは
健康や体力を維持するうえでとても重要と言えます。
そこで今回は「寝たきりをなくそう!」と題して
座位や立位の大切さについて考えていこうと思います。
寝たり、横になると体にかかる重力の影響が無くなり、
無重力に近い状態になります。
長期の寝たきり状態は体力を著しく低下させ、
健康に大きな弊害をもたらします。
その弊害は身体全体に及び、筋骨格系の機能低下に伴って、
筋力低下、変形、拘縮、筋委縮、心肺機能の低下,知的能力の低下、
耐久力低下をもたらします。
さらに心循環系に大きな負担をかけることになり、
心収縮低下や起立性低血圧などの症状が出現します。
このような心機能低下は更なる運動低下状態を助長することになり、
いわゆる悪循環に陥ります。
立位では心臓と下肢との間に約100mmHgの圧力差が生じ、
血液が下肢に貯まります。
この血液の貯溜によって心臓へ戻る量が減るため、
一回拍出量が減り、その結果血圧の低下を引き起こします。
血圧が一定水準より下がると、脳は充分な血液を確保できなくなり、
目眩が起こったり、立っているのが困難になります。
このため、立位ではいかに血圧を維持するかが重要で、
血圧の低下に対して次のような調節機構が働きます。
血圧が低下すると心臓や血管内にある圧受容器の活動が抑制され、
迷走神経の求心制活動が減少します。
そこで交感神経活動が活発となり、その結果心拍数が増加します。
つまり、心臓から送り出す血液量の減少を回数で補う訳です。
もう一つには末梢の血管収縮があります。
四肢の血管を縮めることにより血管抵抗を増大させて血圧を高め、
脳血流を一定に維持しようとする働きです。
これら一連の反応によって血圧は速やかに回復し、
立位姿勢を継続することが可能になるのです。
このような循環調節機構は日常生活の大半を立位や座位などの
抗重力姿勢で過ごすヒトに備わった適応能力とも言えます。
分かりやすい例として宇宙飛行士を挙げてみます。
無重力あるいは微小重力環境に長期間滞在する彼らは、
言わば寝たきりに非常に近い状態です。
無重力環境であっても運動で負荷がかかれぱ、
筋や骨格などの運動器官の機能低下は防御できます。
しかし、循環調節機能と密接に関係する起立耐性は運動によって防御できず、
地球に帰還後、その能カが低下していることが報告されています。
臥床期間をできるだけ短くするには、ベッドでのギャッチアップ、
車椅子座位時間の増加、そして斜面台を用いて徐々に起立位をとり、
可能であれば歩行を行うように勧めます。
寄り掛かりでも座位や立位など抗重力姿勢を継続して確保しますが、
それでも機能維持や改善に重要な役割を果たすと考えられています。
ベッドから離れ,一定時間を適切な座位で過ごすことは,
すなわち廃用症候群の予防といえます。
脳幹部に障害がない限り中脳の立ち直り反射を働かせるように
座位姿勢をとらせることは、意識回復に非常によい刺激にもなります。
ベッド上で30分以上の座位が可能となれば、
次は車椅子を用いてのリハビリです。
特に座位耐久性訓練では30分以上の車いすに座っていられれば、
次の段階では本格的な訓練を開始していきます。
座位や立位になることで心臓と頭から下肢までの高低差が生じて、
自律神経の反射による下肢の血管収縮などの循環調整作用が働きます。
普段、何も意識せず立ったり座ったりできるのは、
大脳を中心とする中枢神経が指令を出しているからで、
これが脳の活性化を高めることにもなるのです。
また、座位や立位になることで頭が高い位置になり視界が開け、
脳神経も刺激します。
座位をとるだけで他にも下記のような様々な効果が得られます。
①横隔膜の骨盤方向への移動により胸腔内圧が陰圧となり、
肺自体が拡張されます。
座位や立位では肺容量、特に機能的残気量が増加します。
また、背面をベットから離すことで、背面の横隔膜の動きを
しっかりと引き出し効率の良い呼吸が行えます。
ベッドが背中にくっついた状態というのは
圧迫により背面の胸郭の動きを阻害してしまうので、
呼吸のこと考えると背中はベッドから離す方がよいです。
②消化,排泄機能の改善
③二次障害の予防(変形・拘縮・褥瘡)
④座位能力・バランスの向上(脊柱起立筋の筋力維持と強化)
座位や立位では身体が倒れないようにするために、
重量に対して姿勢を保持しようとします。
それに伴って筋肉に力を入れて緊張させなければならないので、
臥位では働かない筋肉が働くことになります。
⑤食事,摂食・嚥下の改善
⑥目と手の協調性,上肢機能の改善
⑦休息,睡眠
⑧介護が容易化
⑨作業活動の拡大
⑩社会参加,就学,就労
①の「背面開放座位」は背面密着座位よりも優位に
副交感神経が低下・交感神経の亢進が認められています。
そしてその際には両下肢をおろさないと意味を持たず、
下肢をおろして背面開放をすることで自律神経機能に更なる影響が出ます。
従ってリハビリでまず目指すところは端座位を安定させることです。
これができるようになれば、前や横などの方向に目標物を設定し、
そこまで手を伸ばすというリーチ動作のトレーニングをすることができます。
このにより体幹の筋肉、バランス感覚を鍛えることができます。
以下にリハビリにおけるポイントを照会します。
■端座位になって抗重力筋を鍛える
端座位をすることで抗重力筋を鍛えることができます。
抗重力筋とは重力に逆らう動きをするときに使う筋肉で、
起きて座ったり立ち上がったりする時に使います。
抗重力筋は寝ているばかりでは決して鍛えられません。
ベッドを起こしての座位でもいいのですが
これだと骨盤がより後傾してしまいます。
他にも背もたれに頼って体幹の筋があまり働かなくなるのと、
骨盤が後傾すると、より背筋や殿筋などといった
抗重力筋が働きにくくなってしまいます。
ですから、なるべく端座位を取ってもらう方がいい訳です。
■寝たきりを防ぐために平衡感覚の改善も重要なポイント
風邪などで数日寝込んでいて、起き上った時にふらふらする、
なんて経験、あると思います。
これは筋力の問題もありますが、平衡感覚の問題も関係あります。
従って、寝たきりのリハビリというのは、筋力の回復と共に、
平衡感覚の改善も重要なポイントになってきます。
ベッドを起こしての座位でもこの平衡感覚の改善には効果があります。
起き上がった時にフラフラするという経験をすると、
次に起き上がろうとするときに恐怖感が芽生えてしまいます。
そうなると起き上がる意欲が低下してしまいます。
心の問題も非常に大切なポイントです。
病気により、状態が安定するまでリハビリを開始しないでいると
筋力や平衡感覚が弱まって、寝たきりの危険性も高まってしまいます。
寝たきりを防ぐために早期からリハビリを開始することも
大切なことなので、先生と相談するといいでしょう。
しかし、リハビリのときに、急に起こしたりすると、
チアノーゼ、浮腫、血圧低下など循環調節機能の低下を示す場合もあるので、
血圧の変動や血中酸素濃度などをチェックしながら行うことが大切です。
平衡感覚の低下による恐怖心から余計な力が入って
バランスが悪くなったりもします。
異変が起きたらいったん中止して様子を見ることも大切です。
長くなりましたが、以上で座位の大切さ、
立位の大切さが分かっていただけたと思います。
当院も「寝たきりゼロ」を目指して
これからも邁進していきたいと思います♬
『参考資料』
●背面開放座位Q&A
日本看護技術学会 技術研究成果検討委員会
ポジショニング班
●寝たきり状態がもたらす弊害
―循環調節障害を中心に― 愛知県心身障害者コロニー
発達障害研究所治療学部門室長 三田 勝巳
●「急性期呼吸理学療法」 株式会社メジカルビュー社 高橋仁美ら
など