腰部多裂筋の機能とエクササイズ
多裂筋はインナーマッスルと言われ、
椎骨同士を繋ぐ体の深部にある小さな筋肉です。
各椎骨を安定させ脊椎全体の安定性を制御する重要な役目を持っています。
初めに多裂筋の起始・停止・作用からお伝えします。

🔹起始
仙骨(後面)、腰椎の乳頭突起、全胸椎の横突起、
第4〜7頚椎までの関節突起(2〜4個の椎骨を飛び越える)
🔹停止
各起始部から2~4つ上にある椎骨の棘突起に停止
🔹作用(動き)
片側が働けば脊柱を同側に屈曲し、対側に回旋さる。
両側が働けば脊柱を伸展させる。
🔶機能と本来の意義
多裂筋は脊椎同士を連結させ、脊柱を安定させています
(固定性)。
腰部の多裂筋は発達し筋腹も大きい為、
腰部骨盤帯の安定にとっては大変重要で姿勢保持や
調和のとれた動作を可能にしています。
インナーマッスル全般に共通して言えますが、
日常動作・動き出し・スポーツ動作などの局面で
先ず最初に働き深部を固め(安定させ)る事で、
アウターマッスルが効率良くより力強く働く事を助けています。
🔶多裂筋の特性
これもインナーマッスル全般に言える事ですが、
アウターマッスルがあまり優位に働いたり、筋緊張が
亢進し過ぎるとインナーマッスルが機能しにくくなる場合があります。
腰部多裂筋はタイプ1繊維(遅筋・赤筋繊維ともいう)という
疲れにくい筋繊維を多く含んでおり、常に活動しています。
固有感覚受容器が豊富なため痛みを感じやすく、
腰痛などにより機能低下を起こしやすいです。
腰痛疾患のある患者の場合、脊柱起立筋が過剰に働き
アウターが優位になりやすくなります。
また一旦腰痛を起こすと自発的にはその機能は回復しにくいと
言われています。
その為、意識して多裂筋を鍛え、機能を回復させる事が大切になります。
🖌Reflex inhibition(疼痛性抑制反射)などの原因によって萎縮し,
脂肪化すると言われている。
脊柱安定化エクササイズが急性および慢性腰痛における
「疼痛」や 「再発率」をより軽減させるとしたシステマティックレビューもある。
🔶多裂筋のエクササイズ
多裂筋は胸腰筋膜によって腹横筋と連結しています。
多裂筋が働くと体幹のインナーマッスルである横隔膜や腹横筋
骨盤底筋群が同時に収縮します。
腰部多裂筋は骨盤から腰椎にかけての姿勢コントロールと
アウターマッスルによる筋力発揮を向上するためには
欠かせない筋肉です。
〈多裂筋の特性〉でも紹介したように腰痛の既往があったり、
日頃から体を動かす習慣のない方は機能低下を起こしやすい為
意識してエクササイズする事が大切になります。
🖌インナーマッスルのエクササイズでは最大努力は必要とせず、
椎骨同士を安定(固定)させる腰部のエクササイズでは
30〜40%MVC(最大筋力)で充分とされています。
【脊柱伸展エクササイズ】
初めに脊柱を伸展させる多裂筋のエクササイズを紹介します。
1)写真①のようにリラックスして椅子に座ります。
2)写真②のように骨盤を前傾させながら、
天井に向かって背が伸びるように背筋を伸ばします。
その際、インナーマッスルを優位に働かせたいので、
脊柱起立筋などのアウターマッスルを過剰に使わないよう
注意して下さい。
ポイントは浅層の筋肉は緩めたまま、おへその奥の方にだけ、
若干力が入っているイメージで行う事です。
実際に脊柱起立筋に指を当てて、硬くなってしまっていないか
確かめながら行っても良いと思います。
3)力を抜いて写真①の状態に戻します。
この1〜3の動きを骨盤の前後傾を意識しながら、
各5秒づつの時間を掛けながら繰り返します。
1〜2の動きを1回として10回×3セットを目安に頑張って下さい。
【四つ這いエクササイズ】
次に四つ這いでのエクササイズを紹介します。
四つ這いは腹臥位が取れないような脊椎の変形が強い人などで
実施可能で、安全に行える姿位と言われています。
(痛みがある場合は無理は禁物です)
1)先ず四つ這いの姿勢をとります。
その際腕と大腿は床と垂直になるよう意識しましょう。
頭部は屈曲でも伸展でもない中間位になるように。
2)片側の手と対側の下肢持ち上げます。
その際体幹が捻れたり、片側に偏位したりとブレないように
ドローイン(お腹を凹ませるようにして腹横筋を固める)を行い、
体幹を固めます。
3)その姿勢のまま10秒キープを目安になるべく静止を心がけます。
手と足は上に上げるというよりも、
上写真の矢印のように遠くに伸ばす意識です。
4)次に手と足を入れ替えてまた10秒キープ。
ここまでを1セットとして3セットを目安に頑張ってみましょう!
この時の筋肉の活動状態は以下の通りです。
⚫︎脊柱起立筋→手を上げた側の筋活動が高い。
下肢は対側が高くなる。
⚫︎多裂筋→手を上げた対側の筋活動が高い。
下肢は同側が高くなる。
※但し、優位というだけで左右どちらも活動はしている。
大殿筋上部線維に腰部多裂筋は覆われており、
筋膜を介して連結しています。
従って大殿筋上部線維と腰部多裂筋どちらも仙腸関節の
安定性を担っています。
大殿筋による股関節伸展運動の際にも、
多裂筋が骨盤や仙腸関節を安定させる事で、
より効率良く股関節伸展筋力も発揮しやすくなるされています。
🖌ローカル筋(インナーマッスル)収縮の僅か数%の増加でも脊柱分節の強度は高まる
「腰部多裂筋の選択的活動をコンセプトとした新たなexerciseの筋電図学的解析」より
理学療法学 第42巻第2号 114〜118頁 (2015年) 短報 村尾昌信、佐藤嘉展、中嶋正明
また上図のように多裂筋は椎間関節の関節包にも
付着しています。
脊柱を伸展した際、多裂筋が収縮する事によりその関節包や
脂肪組織・滑膜を引っぱり出す為、
挟み込みによる疼痛を防ぐ効果もあると言われています。
〈参考資料〉
・生方瞳, 霍明, and 丸山仁司. “慢性腰痛症における多裂筋筋硬度の左右差について.” 理学療法科学 29.1 (2014): 101-104.平成29年8月10日アクセス
・【腰部多裂筋の選択的活動をコ ンセプトとした 新たなexercise の筋電図学的解析】理学療法学
第42巻第2号 114〜118頁 (2015年) 短 報
村尾昌信、佐藤嘉展、中嶋正明
・効率的な多裂筋の筋力強化法の再考
今 絵理佳 埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科
・腰痛機能障害と運動療法ガイドブック
著者 赤羽根良和(さとう整形外科 リハビリテーション科室長)
・・・など